まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「そんなことありませんわよ。殿下が真っ先にお誘いになったじゃありませんか。二曲続けて踊られたのもエロイーズさんだけですわ」

どうやら真ん中の濃い紫色のドレスを着た令嬢がハイゼン公爵家のエロイーズのようだ。

馬車内で聞いたばかりの名前が出たので、パトリシアはもぐもぐと口を動かしながら考える。

(王太子妃に内定しているというのはこの方なのね。たしか……)

頭の中で貴族名鑑をめくる。

『王家に次ぐとも言われる権力者の末娘で十九歳。美しく教養があり嗜み深く、ピアノとバイオリンの名手。趣味は観劇と詩集の朗読で、彼女が主催するお茶会が頻繁にあり、それに招待されるのが同年代の貴族にとってステータスのようになっている。知人、友人が多い』

非の打ちどころのないお嬢様で、王太子妃の話が出る前から一目置かれた存在だったということだろう。

彼女の艶やかなブロンドの髪は美しく華やかに結い上げられ、ダイヤを散りばめたティアラを髪飾りとしている。

ほっそりとした白い首には三連のダイヤのネックレスが輝き、レースの手袋の上にも揃いのデザインのブレスレットをつけていた。

ドレスは素人目にもわかるくらい生地が上質で、最上級の縫製技術で仕立てられた逸品に違いない。

思わず見惚れてため息がもれる。