まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

忙しい母を助けたいと幼い頃から台所に立ち、十歳になる前にはひと通りの郷土料理を作れるようになった。

働いている漁港で品物にならない魚介がただで手に入り、近隣農家からは野菜を分けてもらえたので、貧しくても食卓は充実していたように思う。

『美味しい』の言葉が聞きたくて色々な料理を作っては村人たちにも振る舞い、そうしているうちに腕前がめきめき上がって『お店を出せそうだね』と言ってくれる人もいた。

しかし伯爵邸に住むようになってからは一度も料理をしていない。

『料理は使用人の仕事だ。伯爵令嬢の自覚を持て』

そのように父に叱られ、調理場に入ることを許してもらえなかったのだ。

ずらりと並んだ王城のご馳走に料理欲求が刺激され、夢中で味とレシピを覚えようとしていた。

するとテーブルを挟んだ正面から影が差し、顔を上げると三人の若い貴族女性がこちらに背を向けて並んで立っていた。

興味がなくても彼女たちの会話が耳に入る。

「王太子妃になられてからも、私と仲よくしてくださいませ」

「それはこちらの台詞ですわ。あなたが殿下の花嫁に選ばれましても、お友達でいましょう」

「謙虚ですわね。皆さんが王太子妃は決まったようなものだと仰っていますのに」

「最終的にお選びになるのは殿下ですから。今の段階でわたくしは、会場にいらっしゃるどの女性とも同じ立場ですわ」