まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

女性から熱視線を送られるのは王太子という高い身分だからだけでなく、その美貌や醸し出される気品、気高さも理由なのかもしれない。

彼を見ていない女性は、どうやらパトリシアだけのようだ。

(早く食べたいけど挨拶中は失礼よね。早く終わらないかな)

『それでは皆様、心ゆくまでダンスと語らいをお楽しみください。音楽を』

宮廷楽団が舞踏曲を奏で始めると、皆の注目の中で王太子が濃い紫色のドレスをまとった美しい令嬢を誘った。

他の貴族たちも次々とペアを作り、王太子に続いて三十組ほどが優雅に踊りだす。クルクルと舞う女性のドレスの裾が広がって実に華やかな光景だ。

(お花が咲いたみたいにきれいね。このデコレーションケーキは)

甘いものには目がないが、ケーキを取るのは我慢した。

(まずは味の想像ができない料理から。デザートでお腹がいっぱいになったら、味を知らずに終わってしまう。そんなのもったいない)

給仕の使用人に声をかけ、数種類の料理を少量ずつ取り分けてもらう。

(このテリーヌは鮭とヒラメをムースにしてある。生クリームとレモン果汁、ナツメグと……この香りはブランデーかな。こっちのボイルしたオマール海老にかけられているソースは、卵黄とバター、エシャロットとエストラゴン、ビネガー、トマトも入っているみたい。酸味が癖になりそう。勉強になる!)

パトリシアは料理をするのが大好きだ。