まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「私に王妃が務まるの……?」

 揺れる瞳にアドルディオンを映すと、体ごとこちらを向いて手を握ってくれた。

 その口角はわずかに上がっている。

「俺は国民に寄り添える王妃を望んでいる。すでに民に慕われているクララは適任だろう。君をモデルにした冒険物語が出版されたとジルフォードから聞いたが」

「あっ」

 母が病室で読んでいたあの本だとすぐに思いあたった。

 アドルディオンは本を手にとってはいないような口ぶりだが、赤面するクララを面白そうに見ているので、海賊と戦った内容まで知っていそうな気がした。

「私、そんなに勇敢じゃないのに」

「いや、君は勇敢だ。暴れ馬に飛び乗り、村を出て王太子妃になり、襲撃から俺を助けてくれた。十分に勇ましいな」

 からかうように言ってから優しく妻の頬を撫で、その後に真顔を取り戻す。

「王妃はクララにしか務まらない。なぜなら俺が必要としている妻は君だから。国のため民のため、俺たちのために支え合って未来を築きたい。これからも俺のそばにいてくれ」

 決して忘れないよう夫の言葉を心の中で繰り返す。

 そうしていると不安が波のように引いて自信と意欲が湧き、覚悟が決まった。

「王妃として、あなたとともに歩みます」

「ありがとう」

 フッと笑ったアドルディオンの翡翠色の瞳が艶めき、後ろ髪に男らしい指が潜り込んだ。