まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「はい」

(どうかエロイーズさんが幸せな結婚生活を送れますように……)

 夫の話はそれだけではなかった。

「もうひとつ、夕方に父上に呼ばれたんだ」

 国王の病状はゆっくりと悪化の一途をたどっている。

 春になる前は車椅子で邸宅内を移動する姿をたまに見かけていたのに、ここ最近は寝室から出ていないようだ。

 心配で見舞いを申し込んでも、話すだけで疲れてしまうからと王妃に断られた。

 苦しい息で息子を呼び、なにを話したのかと、クララは背筋を伸ばして話の続きを待った。

「譲位の相談だった。父上の命が尽きる前に王位を譲りたいと。異例だが、その方が国民が安心できるだろうというご意向だ。俺は王位を継ぐ覚悟を子供の頃からしているので異論はない。襲撃事件に幕が下ろされた明日以降、譲位に向けて準備を始める」

 クララももちろん夫がいつかは国王になると思っていたが、まさかこんなに早いとは。

 その話を飲み込めるまでに数秒を要し、やっと口を開いた。

「あなたが国王陛下になる姿は想像できるの。でも私は……」

「王妃は君だ」

 その言葉の重みは王太子妃の比ではなく、不安や動揺が心に広がる。

(私の出自をよく思わない貴族もいるわ。私が王家への求心力を下げてしまったら? 教養はまだまだ足りないし、会ったことのない貴族もたくさんいる。交流を広げるのはこれからだと思っていたのに)