まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 ホッと胸を撫で下ろしたら、母がクスクスと笑う。

「さあお茶にしましょう。今日はなにを作ってきてくれたの?」

「シナモン多めのアップルパイ」

「嬉しい。大好物よ」

 ソファに並んで座り、ティータイムを楽しむ。

 この時間がなくなるのは寂しいけれど、退院は待ち遠しい。

(お母さんが暮らしたい場所はサンターニュで、私は王都。王太子妃として務めながら、アドと支え合って生きていく。それでいいわよね)

 たくさんの黄色い花房のおかげで病室がワントーン明るくなったように感じた。

 別離の寂しさは希望に上書きされ、クララは母と一緒にアップルパイを楽しんだ。



 夜になり、寝支度をすませたクララは寝室に続くドアノブに手をかけた。

 アドルディオンはきっと今夜も遅くまで仕事をするはずだ。

 そう思うので気を抜いてあくびをしながらドアを開けたら、ソファに座っている寝間着姿の夫と目が合って驚いた。

 慌てて口元を隠しても遅く、吹き出されて赤面する。

「いると思わなかったから……」

「いない方がいいということか?」

「そ、そうじゃないわ! アドがいてくれてすごく嬉しい。ふたりでゆっくり話したかったの。本当に本当よ?」

「クララの気持ちはわかっているから焦らなくていい。からかってすまない」