まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

男性は落ち着いた色合いの礼服の者が多いが、女性は色とりどりのドレスや煌びやかなジュエリーを身に着けて華やかだ。

出かける前に着飾りすぎだと感じたが、むしろパトリシアは控えめな方である。

それについてなにを思うこともなく、目の前のご馳走にすっかり心を奪われていた。

(すごいわ!)

十メートルほどに繋いだ長テーブルが三列あり、前菜からデザートまで何十種類もの料理が美しく盛りつけられている。興奮しないわけにいかない。

(このサラダの黄色い野菜はなんという名前かしら? ドレッシングに入っている赤いツブツブはなに? 後から調べるために筆記用具を持ってくればよかった)

長テーブルの間をうろうろしながら興味津々に眺めていると、給仕係の使用人に奇異な目で見られる。

他の貴族はまだ誰も料理を取りに来ていない。

それもそのはずで今は王太子がホールの中央で挨拶をしていた。

『今年も無事に舞踏会を開催でき喜ばしく思います。これは我が国の平和と秩序が保たれているからであり、皆様の日頃からの王家への助力に感謝します。私の招待を受け、雪の降る中を――』

伸びやかなバリトンボイスが会場内に響く。

招待客たちは王太子を取り巻くように集まって静聴し、うっとりとした顔の令嬢もいた。