まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 銀髪の少年は頼もしく成長し、危ない時にはこうして守ってくれる。九年前とは違うのだ。

 記憶を呼び覚ましている間にイルカの群れは離れ、船に安定した走行が戻る。

「クララ、どうした?」

 ハッと我に返って至近距離にあるアドルディオンの顔を見れば、少年時代の彼と重なり、これ以上はないと思っていたのに愛しさが倍増するようだった。

「アド、思い出したの」

 眉を上げた夫の翡翠色の瞳に期待がにじむ。

「少年の時のあなたも、今のあなたも大好きよ」

 笑顔で告白すると、目を見開いた夫に強い力で抱きしめられた。

「いい思い出ばかりではない。怖くはないか?」

「うん。アドが隣にいてくれるから大丈夫。あなたとの思い出はキラキラして、一生の宝物だわ」

「ああ……クララ……」

 耳元で甘く囁くように名を呼ばれ、くすぐったくてフフッと笑う。

 ガスパロと護衛兵たちはこちらに背を向け、夫婦の抱擁を見ないようにしてくれていた。


* * *


 冬になり新年を迎え、やがて春が訪れる。

 日に日に暖かくなり王城の庭園ではミモザの木が黄色いたわわな花房を垂らしていた。

 庭師に頼んでミモザの枝を切ってもらったクララは、花束と手作りのアップルパイを籠に入れて王城を出る。

 時刻は十四時半で、もう今日の公務は終えている。