まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

会場内でパトリシアがなにをしても、見ていない兄は父に告げ口できない。

それならば淑女らしい振る舞いも、他貴族と交流する必要もないのではないだろうか。

王太子妃の座を狙う意味がないと知った今は頑張る気になれなかった。馬車内で感じた悔しさが胸に燻ってもいる。

(すべてがお父様の思惑通りに進むのは納得いかない。港の使用料の減額なんて、私の知ったことでないわ。王太子殿下からダンスに誘われない方がいい。お父様の期待通りに私の価値が上がるのは嫌だもの。ここから先は自由にさせてもらいます!)

そう決めた途端、心細さも緊張もきれいさっぱりと消え去って、久しぶりに清々しい開放感を味わった。

心がただの村娘に戻ったら素朴な好奇心に突き動かされ、豪華な会場内を物珍しく見渡す。右を向けば揃いの衣装の宮廷楽団がダンスの開始を待っていて、左を見れば奥の方に白いテーブルクロスをかけた長テーブルが並んでいた。

ダンスの合間に立食で食事ができるようだ。

たちまちパトリシアの目が輝いた。

(大皿のご馳走がたくさんある。ここからじゃどんな料理か見えないから近くに行きたい。食べたことのない食材や調味料が使われていそう。王城の料理ならきっと驚くほど美味しいに違いない!)

いそいそと立食テーブルの方へ移動を始めたら、ホールの扉が閉まって開催を告げる声が響いた。

招待客は百五十人ほどだろうか。