まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 寂しいけれど少年を待つ家族がいると思えば引き留められず、対で渡されたカフスボタンの片方に『私を忘れないで』という願いを込めて返した。

 ついに来た別れの朝は、無理を言って途中までついていった。

 そこで思いがけず将来を約束されてすごく驚いたのも思い出した。

『必ず迎えに来るから信じて待っていてくれ。クララを俺の妃にすると決めたんだ』

『妃って、お嫁さんのこと?』

『そうだよ』

『私がアドのお嫁さんに……』

(アドは私が好きなのね。私もよ。お母さんや村の人を好きって思うのと違う。これが恋?)

 嬉しくて恥ずかしくて小さな胸を精一杯ときめかせていたら、駆けつけた兵士に森の悪魔だと誤解された。

 三日間の少年との様々なシーンがたくさんの海水の玉に映り、それを読み取ってしっかりと記憶に留める。

 兵士に襲われて川に落ちた時の恐怖もだ。

(殺されると思ってすごく怖かった。だから記憶を失ったんだ。振り上げられた剣や濁流を思い出したくなかったから)

 それほどまでの出来事だが、九歳の時とは違い今は真正面から受け止められた。

(あの兵士は錯乱していた。アドが見つからず死に物狂いで捜していたせいよね。正常な判断ができなくても仕方ないわ)

 そう思えるのは心が大人になったせいでもあるだろうが、隣に夫がいる安心感が大きな理由の気がした。