まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 華奢なクララは体勢を崩し、船の縁を掴んでいた手が外れてしまったが、素早く腰に回されたアドルディオンの腕に守られた。

 驚いたけれど落水するという焦りはなかった。夫が助けてくれると信じているからだ。

(もう怖がらなくていい。あの時みたいに落ちたりしないから。ん? あの時って――)

 イルカが舞い上げた海水の玉が、朝陽を浴びてキラキラと降り注ぐ。

 いくつもの美しい透明な玉に、粗末なワンピース姿の少女と身なりのいい銀髪の少年が映って見えた。

(大変。あのままじゃ振り落とされて怪我ですまないわ!)

 少年を助けようと暴れ馬に飛び乗った時の気持ちが蘇り――。

(いた! よかった。帰っちゃったかもって少しだけ思ってた。小魚をいっぱいもらったから美味しいスープを食べてもらわないと)

 漁港での仕事を終えて帰宅すると、少年が待っていてくれて嬉しかった思い出も戻ってきた。

(アドってすごいのね。先生みたい。ずっとここにいてくれないかな。そうしたら学校に行けなくても賢くなれるわ)

 夜は勉強を教えてくれて学ぶ楽しさを知り、別れの前夜には――。

(海みたいに青い宝石。すごく嬉しいけど、本当は宝石より私のそばにいてほしい。家に帰ったらアドは私のこと忘れてしまうのかな)