まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!


 涼やかな目元を優しく細めた彼が、声に甘さを含ませる。

「必ず君を幸せにすると、この海に誓う」

 頬が熱くてたまらない。

 ときめきは最高潮に高まり、抱きつきたい衝動を抑えるのに苦労する。

「私はすでに幸せです」

 愛しい人に愛されて、幸せでないはずがない。

「謙虚だな。ならば今以上の幸福を君に。約束だ」

「はい」

 いつの間にか辺りはすっかり明るくなっていた。

 清々しく新鮮な朝陽が海面を輝かせ、胸に提げているカフスボタンのように青く透き通っていた。

 念願だった故郷の海の色を眺めてアドルディオンに寄り添う。

 するとガスパロの舌打ちが聞こえた。

「来やがった」

 文句を言った相手は敵兵ではなく、イルカの群れだ。

 十頭ほどが船と並行して水面を跳ねるように泳いでいる。

 漁船は見慣れていても船に乗るのは初めてで、こんなに間近にイルカを見たことはない。

 クララは歓声を上げ、アドルディオンと護衛兵たちは珍しそうにしているが、ガスパロだけは迷惑そうだ。

「こいつら船と遊んでんだ。漁を邪魔されたこともある。飽きたら勝手にいなくなるけど、濡れねぇように気をつけな」

 注意されたその直後、一頭のイルカが高くジャンプして大きな水飛沫が上がった。

 海水をまともに浴びてしまわないよう急に舵が切られたため、船体が大きく揺れる。