まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 村の平穏な暮らしは今後も変わらない。

 心からホッとして笑みを浮かべ、アドルディオンの頼もしさに頬を染めた。

 ガスパロも安心したのか、強面の口元がほんの少し緩んだ。

「命令ひとつで領主様を拘束か。王太子っていうのはすげぇ力を持ってんだな。恐れ入った。お、向こうから商船が来る」

 ガスパロの視線を追って皆が前方の海を見た。

 夜明け間近で辺りはほんのり明るくなり、遠くに小さく船影が見える。

 これからサンターニュに入港する中型商船だとガスパロが教えてくれた。

 彼の声が急に低くなる。

「あの船は領主様の交易船で隣国との間を行き来してんだ。こっちからは小麦と果実とワイン、海産物を積んでいき、あっちからは金塊だ。見たわけじゃねぇけど、港の酒場で商船の船乗りが秘密を漏らしてた」

 金塊と聞いた途端にアドルディオンの目が険しくなる。

「ケドラー辺境伯の輸入品目に金の申告はない」

「やっぱり密輸か。関税逃れで大儲けってやつだな。俺たち領民への課税額は年々上げられてるってぇのによ。領主様はそんなに金持ちになりてぇのか」

 ガスパロのぼやきは、領主の強欲さを明らかにするというちっぽけなものではすまない。

 国家にとっての重罪、反逆の証拠だ。

 視察中に辺境伯の歴代の悲願について夫から聞かされていたため、クララにもわかった。

「独立戦争を起こそうとしているの?」