まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「見ればわかるだろ。今朝の漁に出るところだよ」

「日も上らないうちにか」

「なに言ってやがる。朝になってから船を出して魚が獲れると思うのか? 漁師はいつも夜明け前に海に出てんだよ。なんも知らねぇんだな。仕事の邪魔だ。どいてくれ」

 船体がガタンと音を立てて動き、ゆらゆらと波に揺れたかと思ったら、一気に加速する推進力を感じた。

「船の中を確認させろ。こら、待てと言っているのが聞こえないのか!」

「怪しい船だ。至急捜索部隊長に連絡を!」

「気づかれたか。だが海に出ちまえばこっちのもんよ。追い風にのって一気に隣の領地まで行くぜ」 傭兵たちの声が遠ざかり、顔を出していいとガスパロに言われて毛布の下から出た。

 帆が風を受けてぐんぐん速度が上がり、故郷の陸地が小さくなっていく。

「小さな船でこの安定感。大した腕前だ」

 国軍大将の言葉に、船尾で舵を取っているガスパロが鼻を鳴らす。

「当たり前のこと言ってんじゃねぇ。こっちはガキの頃から波と闘って生きてんだ」

「そうか。歴戦の漁師に失礼な褒め方をした。今後、魚料理を食べる時には、まず漁師に感謝しよう」

「面倒くせぇ野郎だな。うまけりゃそれでいいんだよ」

 陸は完全に見えなくなり、どこを見ても海ばかり。

 ここまでくれば追いつかれる心配はない。