まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 傭兵に見つからないように足音に気をつけ、やっと波音を聞いた。

 周囲を警戒してから、ガスパロが自分の船につるしてあるランプに火を入れる。

 すると拳大の石がごろごろした海岸と打ち寄せる波、三隻の小型漁船が暗がりに浮かび上がった。

 どの船も使い込まれて塗装がはげ、たたまれている帆は汚れて黒ずんでいた。

 残っている船を数えてガスパロが言う。

「他の連中はもう海に出たみてぇだ」

 クララはホッとしたが、アドルディオンも護衛兵たちも浮かない顔をしていた。

 彼らにとっての船のイメージはきっと、立派な商船や軍艦なのだろう。古い小型漁船で海に出る漁師を見慣れているクララとは違い、転覆しないかと心配そうだ。

「早く乗れ。漁具の陰に隠れてこの毛布をかぶってろ」

 乗らないという選択肢はなく、皆が言われた通りにする。

 ガスパロが係留ロープを外して船体を海へ押し出そうとしたら、「待て!」と怒鳴るような声をかけられた。

 クララは毛布の下で、船につるしているランプ以外の明かりを感じた。

(傭兵だ。見つかってしまった……)

 息をひそめて様子を窺う。緊張と恐怖で震え出した手をアドルディオンが握ってくれても、鼓動が嫌な音で鳴り立てた。

(ガスパロさん、お願い)

 傭兵の人数はわからないが、複数人の声が聞こえる。

「村男か。なにをやっている」