まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 ガスパロが鼻の下をこすって照れくさそうにへへッと笑った。

「奥方だってよ。上品な言い方されたら調子が狂っちまう。スープを褒めてくれてありがとよ。母ちゃんが大喜びするわ。腹が減っては戦はできねぇって言うからな。腹いっぱいにしてくれや」

 強面の顔で目を弓なりにするガスパロを見たのはクララも初めてである。

 自分より妻を褒められて喜ぶ彼の人柄のよさが伝わり、国軍大将は怒りを収めた様子だ。

(アドはきっと、すべてお見通しで奥さんを褒めたのね)

 冷静な判断と対処ができる夫を尊敬し視線を合わせれば、笑みを返してくれた。

「美味しいな」

「うん」

「九年前はクララがこのスープを出してくれた。城に帰還したらまた作ってくれないか?」

「もちろんよ」

 そのためには生きて戻らなければ。

 無事に辺境伯領を出られるようにと願いながらスプーンを口に運んだ。



 夜明けの三十分前になり、クララたち五人はガスパロについて海へ向かう。

 他の漁師に匿われている視察隊も動いていることだろう。

 村には中型商船も泊まれる整備された港がある。

 そちらは見張りの目が厳しいと思われるため、小型漁船しか利用できない自然のままの入り江から出航する話になっていた。

 東の空はうっすら白んできたが辺りはまだ夜の様相で、手を握ってくれているアドルディオンの顔も見えない。