まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

開催時刻は間もなくで、続々と到着する貴族たちが挨拶の順番待ちの列をなしている。

後ろにいた貴族男性が終わったなら早くどけとばかりに進み出て、王太子と話し始めてしまった。

今から挨拶するわけにいかず、一礼してその場を離れるしかない。

壁際まで移動してロベルトに鼻で笑われる。

「あれがお前の頑張りというものか?」

「タイミングが掴めなかったんです」

「愚鈍だな。お前を連れ歩くのは苦痛だ。ここまでエスコートしてやったんだからもういいだろ。後は終了までひとりで過ごせ」

「えっ?」

世話役を放棄されて焦る。クラム伯爵家と繋がりのある貴族や有力貴族名は頭に入っているけれど、誰の顔もわからない。

ひとりの時に誰かに話しかけられたらどうしようと不安になり、出入口に向けて歩き出した兄の背を呼び止めた。

「ロベルトお兄様はどちらに?」

「俺はここにいる意味がない。後継ぎではないから妻は不要。どこかで時間を潰して終了時刻に迎えにきてやる」

ロベルトに結婚願望はないようで、集団お見合いのような舞踏会を煩わしく思っているらしい。足早にホールから出ていった。

(ひとりにされてしまった。どうしよう)

心細さにオロオロしたが、はたと気づいて目を瞬かせる。

(私を見張る人はいない。ということは、気を抜いてもいいんじゃない?)