まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 屋根裏に隠れて見つからずにすんだが、すでに森の捜索は終え、村の家々にまで範囲を広げていると知り恐怖している。

 村人たちの平穏を壊してしまい、申し訳なさで胸も痛い。

 クララの気持ちを読んでくれたからか、アドルディオンがずっと肩を抱いてくれている。

 狭い寝室に五人で身をひそめていると、静かにドアが開いてガスパロが食事を持ってきてくれた。

「腹減っただろ」

 裏返した木箱の上に置かれたのは、郷土料理の魚介のスープと素朴な塩パンだ。

 ガスパロは四十歳の腕利きの漁師で、がっしりした体形で濃い口髭を蓄えている。

 子供の頃にクララを『ガキがうろちょろすんな』と叱りつけた人だ。

 若干の苦手意識を持っていたが、それは日が沈むのを待ってここに移動した時に消えてなくなった。

『王太子妃とは随分偉くなっちまって。だが顔は俺らがよく知っているクララのままだ。よく帰ってきたな』

 そう言って目を細めて抱きしめてくれたのだ。

『あんたが王太子殿下か? 言葉遣いがなってなくてすまねぇ。田舎者だから勘弁してくんな。必ず無事に逃がしてやるから心配いらねぇ』

 荒っぽい口調で強面だから怖い人だと思っていたが、振り返ってみれば怒鳴られたあの時にガスパロは重たい蛸壺や先のとがった銛を抱えていた。

 前を横切ったクララが危ないと思ったから叱ってくれたのだろう。