まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 少女時代に自分がなにを教えたのかわからないが、きっと些細なことだろう。

 今でも覚えていてくれる彼の清々しい笑みに胸が熱くなる。

 たった三日間を一緒に過ごしただけなのに、愛してもらえた理由がわかったような気がしていた。

 護衛兵が鍵をかけたドアの前を見張っている。

 高い位置にある窓から中は覗けないと思うが、そこも警戒してくれていた。

 秋の日が差し込む礼拝堂で、夫婦は静かに見つめ合う。

(九年前を思い出したい。そうすればもっと心を通わせることができるのに……)

 じれったい思いで心を覗いても、眠りについている記憶の扉が開くことはなかった。



 日が沈み、村は暗闇の中だ。

 外灯は一本もなく、ポツポツと点在する家々のランプの明かりが雨戸の隙間から漏れるのみ。王都に比べると、村の夜はかなり暗い。

 雨戸をガタガタと揺らす海風の音に、獣の咆哮が交ざる。

(怖い……)

 そう思うのは村の夜ではなく、いつ敵兵に見つかるかとヒヤヒヤしているせいだ。

 ここはガスパロという漁師の家で、王太子夫妻と国軍大将と護衛兵、計五人が匿われている。

 視察隊は五人ずつ五組に分かれ、それぞれ別の漁師の家で息をひそめ、示し合わせた出航時間を待っていた。

 今は二十時を回ったくらいだろうか。

 つい先ほど辺境伯の傭兵がやってきて、家の中まで調べていった。