まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

『飛び跳ねてはいかんよ。板が壊れて怪我をしては大変だ。あそこはな、村人を守ってくれるいにしえの知恵が眠っているんだよ。いつか役立つ時がくるかもしれないから大事にしておくれ』

 あの時は意味がわからなかったが、怪我をすると言われて怖いと感じたため記憶に残っていたのだ。

 はしごを上りきり、片手で板を力いっぱい押す。

 分厚く重たいので頭まで使って持ち上げ横にずらすと、地上の眩しさに目がくらんだ。

 驚いたような懐かしい声が近くにする。

「扉が開いた? お前さんは……クララか!」

「神父様、お久しぶりです。驚かせてごめんなさい」

 目が光に慣れてくると、祭壇と木製のベンチが八つあるだけの小さな礼拝堂内が見えた。

 今は礼拝中ではなく、黒い司祭服を着た神父しかいないようだ。

 記憶にあるものとなにひとつ変わっておらず、ホッとする。

 掃除中のほうきを置いて駆け寄った神父が、穴から出るのに手を貸してくれた。

「実は私――」

 事情を話そうとすると、先に言われる。

「さっきエバンズさんが来てな、クララが王太子妃になったと知らせてくれたんだ。きっと村中、その話で持ちきりだろう」

 噂の広まる速さに驚いていると、皺だらけの優しい手で頭を撫でられた。

「ようやく苦労が報われたと皆が喜んでいる。わしも嬉しい。クレアとクララが無事でいるように毎日祈っておったのだよ」