まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「炭焼きの老爺、王太子の視察隊がここへ来なかったか?」

「ほう、森の中まで客が来るとは珍しい。炭なら小屋の中にたんと入っておる。好きなだけ持っていけ。料金は払ってもらうがの」

「炭を買いにきたわけではない。王太子を捜している。聞こえないのか?」

「ほうほう、探し物とな。なにを落としたんじゃ?」

 ゼフリーは七十歳を優に超えているが耳は遠くない。

 会話がしにくいふりをして時間稼ぎをしてくれているようだ。

「話にならん」

「これ、どこに行くんじゃ。お前さんが崩した薪を片づけてからにしてくれんかのう」

「最初から崩れていただろ。聞こえが悪いのではなくもうろくしているのか。構っていられん。おい、辺境伯の兵よ、領主に増軍の連絡を。村の出入口を封鎖してから森を捜索する。森で見つからなければ村中をくまなく捜索しなければ」

 やっと目が慣れてきたので一行は足音を忍ばせて奥へとトンネルを進む。

 地上の声が聞こえなくなってから、夫と国軍大将がヒソヒソと相談を始める。

「殿下、先ほどの会話を聞く限り、陸路で辺境伯領を脱出するのは難しいと思われます」

「そうだな。海しかあるまい。クララ、船を出してくれる知り合いはいないか?」

「漁港で働いていた時に漁師さんたちと仲よくしていたわ。お願いしてみる」

 役立てるのが嬉しくて張りきって答えてから、従者たちの反応を気にした。