まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

グレーの上着に白いズボンの夜会着は襟や袖に金刺繍が施され、肩章がついている。豊かなドレープのジャボに留められているブローチは、大粒のダイヤモンドではないだろうか。

均整の取れた長身に涼やかな面立ちで、銀に青空を混ぜたような髪色が目を引いた。

凛々しい眉の下の翡翠色の三白眼が知的でクールな雰囲気を醸している。

立ち姿に気品と気高さがあり、神々しささえ感じて息をのんだ。

(これが、本物の貴族……)

父親とロベルトも生まれながらの貴族だが、五メートルほど先にいる彼がまとう雰囲気は桁違いに洗練されていた。

「王太子殿下だ。せいぜい頑張ればいい」

ロベルトに小バカにしたように耳打ちされ、自分の愚かさに気づく。

(頑張ればどうにかなるかもしれないと、一瞬だけでも思ったのは間違いだった。王太子殿下は別世界の人よ)

作り笑顔の兄に引っ張られるようにして王太子の前に進む。

「王太子殿下、お久しぶりにございます。夏の天体観測サロン以来ですね。今宵はお招きくださいまして誠にありがとうございます」

「ようこそ。サロンでの貴殿の月に関する新説は興味深かった。今夏の集いにもぜひご参加を。今宵はダンスと食事を楽しんでください」

「ありがとうございます――」

ロベルトに横目でチラッと見られてハッとした。ここが自己紹介のタイミングだったようだが、気づくのが遅かった。