まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 続いてクララがはしごに足をかける。

「ゼフリーさん、ありがとう。いつか恩返しにくるわ」

「そんなのいらんよ。クララには炭運びを何度も手伝ってもらったからの。無事に王都へ戻れるのを祈っておる」

 血縁の祖父には会ったことがないので、クララにとってはゼフリーがそのような存在だ。

 森に住む動物の習性や食べられる野草や木の実、毒のあるきのこなどの見分け方を教えてもらった。

 楽しい思い出が蘇り、もう少しここにいたくなるのを我慢してはしごを下りる。

 その後はアドルディオンだ。

「クララの夫はあんたかい? この子はいい子じゃ。幸せにしてやっておくれ」

 官人が焦り顔で無礼だと言おうとしているが、それを制した夫がゼフリーに頭を下げた。

「必ず幸せにします」

 二十五人全員がはしごを下りて鉄の扉が戻された。

 トンネルの中は漆喰で固められているものの、湿り気があってカビ臭く、肌寒くもあり長居はしたくない。

 しかしランプひとつなので明かりが足りず、一行は暗さに目が慣れるまでその場に足を止めていた。

 薪を落とす音が頭上に響く。ゼフリーが元通りに扉を隠そうとしてくれているようだ。

 とりあえずの命の危機は脱してホッとしたのも束の間で、地上に追手の声がして息をひそめた。

 抱き寄せてくれるアドルディオンの胸からも、やや速い鼓動が聞こえる。