まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 ひとりも欠けずにここまで来られたことにホッとしたクララは、すぐに炭焼き小屋の戸を叩いた。

「ゼフリーさん、ゼフリーさん!」

 数秒してガタガタと扉が開き、白い顎髭を長く伸ばした小柄で細身の老爺が現れた。

 煤けた木綿のシャツとつぎはぎのズボン、ハンチング帽をかぶっている。

 その姿は村を出た二年ほど前、いやクララの記憶にある限りずっと前からなにも変わらない。

「おや、クララか。久しぶりじゃの。お母さんの病はよくなったのか?」

「うん。まだ入院中だけどよくなってきているわ。あのね、今日は――」

「昨日かまどに火を入れたんじゃ。焼き上がるまであと二日かかる。その頃に手伝いに来ておくれ」

「ごめんなさい。今日はお手伝いに来たわけじゃないの。私、王太子妃をしていて、それで今、敵に追われているの。お願い助けて」

「ほう、ほう。童話みたいな話じゃのう」

 アドルディオンと従者たちが後ろで会話を聞いており、のんきに笑う老爺に信用のない視線が注がれていた。

『この爺さんがどうやって助けるというんだ』

 そのような声が聞こえてきそうな気がする。

 しかしゼフリーは見た目よりも機敏に動いて、小屋の裏に一堂を連れていった。

 そこには薪が山のように積まれていて、その一角を崩し始める。

 クララはすぐに一緒に薪をどけ始め、アドルディオンも手を貸した。