まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 編み上げのブーツはヒールが高く、ドレスの裾が足にまとわりついて邪魔である。

 それでも並みの貴族令嬢では到底無理な速度で森の中を駆け抜ける。

 深い森の中でクララが先導しなければゼフリーの炭焼き小屋までたどり着けないからだ。

 後ろに剣の交わる音が聞こえないので、敵に追いつかれてはいない様子。

 もしかすると敵兵は騎馬のままで追ってこようとして、生い茂る木々に阻まれているのかもしれない。

 この森を身近に感じて生活していない者は、馬ではうまく進めないとわからないのだ。

 薄暗い森の奥深く、道なき道を十分ほど走り続けると、突然視界が開けた。

 木々が丸く切り開かれたような空間には日が差し込み、粗末な炭焼き小屋とレンガや土を固めて作った大きなかまどを照らしていた。

「全員いるな?」

「はい。二十五名おります」

 アドルディオンも護衛兵も平気そうだが、訓練していない官人の男性三人は返事ができないほど息を乱していた。

 彼らよりは早く呼吸を整えたクララに、官人たちは感心の目を向けている。

 不思議そうにしないのは、王太子妃がこの村の出自だとすでにわかっているからに違いない。親しげに村人と話し、森も熟知しているのだから気づかないわけがないのだ。

 村人と交流する妻を見せても大丈夫だとアドルディオンが判断したのは、腹心の臣下ばかりだからだろう。