まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 敵兵は投てき武器も隠していたようで、彼が弾いてくれなければ怪我ではすまなかっただろう。

(離れたくないと駄々をこねている暇はない。でも私ひとりだけ村人に助けてもらうのは嫌。村人? そうだ!)

 手刀を警戒して馬を降りられずにいるアドルディオンに早口で言う。

「馬を降りてみんなで森へ逃げよう」

「隠れるしか方法のない作戦はダメだ。数の差が優位に出る。援軍を送り込まれたら包囲され出ることができない」

「大丈夫。ゼフリーさんが助けてくれるわ。森の中で炭焼きの仕事をしているおじいさんよ」

 夫はすぐには頷いてくれない。近侍のように長年政務を補佐してきたわけではないのだから、妻の提案にのっていいのかと迷っても致し方ない。

 老爺ひとりでどうやって助けるのかと疑問にも思うだろう。

 詳しく聞きたそうだが、後方の敵が迫っているため時間はなかった。

「策があるんだな?」

「うん。絶対にみんな助かるわ」

 自信を持って答えれば、アドルディオンが真顔で頷いた。

「クララを信じる」

 そう言うや否や、すばやく周囲の状況を確認して味方に命じる。

「全員、馬を降り森の中へ退避せよ。俺について走れ」

 森の入口はすぐそこにあり、馬を放した視察隊二十五人が駆け込んだ。

(もっと走りやすい恰好でくればよかった)