まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 黒幕である自分の存在を知られたくなかったということは、ハイゼン公爵が奇襲の失敗を想定しているのだと夫が説明する。

「俺を暗殺できる可能性に賭けただけのお粗末な奇襲作戦だ」

「なに?」

「軍事訓練された傭兵は十人ほどで、あとはかき集めたごろつきか。そうだろうな。ハイゼン家は軍に見張らせている。大勢の傭兵をこの地に送ろうとすれば気づかれるのは必至。十人が限界だったのか。こちらは国軍の精鋭ぞろいが二十人で、お前たちの使える兵は十人。分が悪いのはどちらだ?」

 アドルディオンの指摘で気づいたが、敵将の服装には違いがある。

 前にいる十人ほどは揃いの兵服姿だが、それより後ろの者たちは様々な平服で顔つきもへらへらと小悪党といった風貌である。

「お前は捨て駒にされたんだ。哀れだな」

(絶体絶命のピンチではない……?)

 こちらが追い詰められていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転していた。

 普段口数の少ない夫の巧みな話術に舌を巻く思いがした。

 それも王太子として多くの重要な交渉に挑んできたからこそ、身に着けられたものなのだろう。

「少人数での出兵命令に、お前も薄々気づいただろう。勝ち目はないと。なぜ逃げなかった? 成功後にどんな報酬を約束されたんだ」

 敵将がかすれた声でなにかを呟いた。

(『家族が……』と言ったの?)