まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 アドルディオンが鋭い声をかけると、仮面の男が薄く笑った。

「知る必要はございません。王太子殿下ご夫妻も護衛兵も皆、この森に住みつく悪魔に殺される予定になっているのですから」

 脅しではないだろう。殺気を感じてクララの恐怖は膨らむばかり。

 暴れ馬に飛び乗る度胸があっても、誰の命も失われるのを見たくなかった。

 震える妻の肩を抱いてくれるアドルディオンは、焦りを少しも顔に出さずどこまでも冷静だ。

 おそらく彼は王太子としてこれまでいくつもの修羅場を乗り越えてきたのだろう。経験から心を落ち着かせる術を知っているのかもしれない。

「捕縛ではなく暗殺か。なるほど。仮面で顔を隠しているがお前の声に聞き覚えがある。ハイゼン公爵家の傭兵だな」

(えっ、辺境伯ではなくハイゼン公爵の?)

 驚いているのはクララだけではない。

 仮面をかぶっていても、敵将が目を見開いているのが味方の騎馬の隙間に見えた。

「なぜ声だけで……」