そう言った彼は馬を止め、覇気のある声で命じる。
「ただちに引き返し、そのまま辺境伯領を出る」
「はっ」
視察隊の馬が一斉に向きを変えて走り出し、速度がどんどん上がる。
揺れる馬の背で安定を失い、焦って夫の胴に腕を回しながら問う。
「アド、なにがあったの?」
「読み違えた。二度も怖い思いをさせてすまない」
記憶は失ったままだが、一度目は少女の頃の話だろう。
その時と匹敵するほどの命の危機が迫っているということなのか。
風を切る音にアドルディオンの緊迫した声が交ざる。
「領内に入ってすぐ違和感を覚えた。わずか五年前まで長らく反王派であったのに、領民が大歓迎してくれるのはなぜだろうかと」
辺境伯が民に命令し、歓迎の練習をさせられていたのだろうと彼は推測したそうだ。
領民に演技をさせてまで忠誠心を見せつけたのは、王太子と良好な関係を築くためか、それとも油断させるためなのか。
「油断とはどういうこと?」
「二代前の辺境伯が独立戦争を起こそうとして失敗した歴史がある。現辺境伯も王家に服従の態度を示しながら独立の機会を窺っているかもしれない。可能性としてだが、それを考えていた」
もしそうだとしたなら、辺境伯は王太子の視察をチャンスとみなすだろう。王太子を捕らえて中央政府に独立を承認するよう脅迫するのだ。
しかし現実的ではない作戦である。
「ただちに引き返し、そのまま辺境伯領を出る」
「はっ」
視察隊の馬が一斉に向きを変えて走り出し、速度がどんどん上がる。
揺れる馬の背で安定を失い、焦って夫の胴に腕を回しながら問う。
「アド、なにがあったの?」
「読み違えた。二度も怖い思いをさせてすまない」
記憶は失ったままだが、一度目は少女の頃の話だろう。
その時と匹敵するほどの命の危機が迫っているということなのか。
風を切る音にアドルディオンの緊迫した声が交ざる。
「領内に入ってすぐ違和感を覚えた。わずか五年前まで長らく反王派であったのに、領民が大歓迎してくれるのはなぜだろうかと」
辺境伯が民に命令し、歓迎の練習をさせられていたのだろうと彼は推測したそうだ。
領民に演技をさせてまで忠誠心を見せつけたのは、王太子と良好な関係を築くためか、それとも油断させるためなのか。
「油断とはどういうこと?」
「二代前の辺境伯が独立戦争を起こそうとして失敗した歴史がある。現辺境伯も王家に服従の態度を示しながら独立の機会を窺っているかもしれない。可能性としてだが、それを考えていた」
もしそうだとしたなら、辺境伯は王太子の視察をチャンスとみなすだろう。王太子を捕らえて中央政府に独立を承認するよう脅迫するのだ。
しかし現実的ではない作戦である。



