まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 昨夜、ドア前で見張りをしていた護衛兵の不審者を咎めるような声を思い出していた。

(問題なかったと言われたけど、私を心配させないようにするための嘘?)

 本当は危険が迫っているのではないかと疑い、不安げにアドルディオンを見つめた。

 言葉にせずとも気持ちは伝わり、腰に夫の片手が回され抱き寄せられる。

「万が一を想定して行動する癖がついているだけだ。君はなにも心配せず故郷を楽しんでくれ。それがこの視察の一番の目的なのだから」

 頼もしい声とたくましい腕に不安が薄れていく。

 楽しまなければ彼の努力を無駄にするとも思い、心を喜びと懐かしさで満たそうとした。

 それから数分進み、雑木林の中の土埃の立つ道に差しかかった時――。

 この視察で選りすぐりの護衛兵二十人を率いているのは、国軍大将の屈強な三十代の男性だ。

 先頭を進んでいた大将が馬速を緩めて隣に並び、主君に上申する。

 妃には聞かれたくないといった様子だが、同じ馬に乗っているのでどうしても耳に届いてしまう。

「前方に十人ほどの黒い影が確認できます。見えない場所に倍の数はいると思った方がよろしいでしょう。町から船を出し、先回りしたのかもしれません」

(黒い影って……?)

 たちまちアドルディオンの表情が険しくなり、ただならぬ雰囲気にクララは動揺した。

「海を見せられなくてすまない」