アドルディオンも感慨に耽っているような顔で景色を眺めており、クララの視線に気づいて目を合わせると微かに微笑んでくれた。
「どこが見たい?」
「ブドウ農園と、漁港と――」
張りきって答えていると、小麦畑の真ん中で農作業中の村人がこちらに気づいて腰を上げるのが見えた。
小麦の収穫は夏に終わり、今は来夏の収穫に向けての種まき時期である。広大な畑に新しい畝が作られていた。
「あっ、エバンズさんだ」
土汚れの目立つ綿のシャツ姿の男性は四十代で、妻子と両親、兄家族の十五人で暮らしている。小麦の他に家族で食べる野菜も育てていて、ジャガイモやトマト、ハーブなどをよく分けてくれた。
そのお礼にクララは子守りを手伝い、エバンズ一家とは浅くない付き合いである。
王太子の視察が入ると知らされていないので、エバンズが首を傾げて隊列を見ていた。
手を振りたくなるのを我慢して、クララはかぶっている帽子の鍔で顔を隠した。
(気づかれてはいけない。でも顔を見られても私だとわからないかも)
二年ほど前、親しい村民たちには母の治療のために王都へ行くと言って村を出た。
クラム伯爵家で世話になる話もしたが、メイドとして働くのだと勘違いされ、訂正できないまま別れることになった。
高価な服を着て護衛に守られながら馬に乗る今の自分が、近所に住んでいた村娘だとは誰も思わないだろう。
「どこが見たい?」
「ブドウ農園と、漁港と――」
張りきって答えていると、小麦畑の真ん中で農作業中の村人がこちらに気づいて腰を上げるのが見えた。
小麦の収穫は夏に終わり、今は来夏の収穫に向けての種まき時期である。広大な畑に新しい畝が作られていた。
「あっ、エバンズさんだ」
土汚れの目立つ綿のシャツ姿の男性は四十代で、妻子と両親、兄家族の十五人で暮らしている。小麦の他に家族で食べる野菜も育てていて、ジャガイモやトマト、ハーブなどをよく分けてくれた。
そのお礼にクララは子守りを手伝い、エバンズ一家とは浅くない付き合いである。
王太子の視察が入ると知らされていないので、エバンズが首を傾げて隊列を見ていた。
手を振りたくなるのを我慢して、クララはかぶっている帽子の鍔で顔を隠した。
(気づかれてはいけない。でも顔を見られても私だとわからないかも)
二年ほど前、親しい村民たちには母の治療のために王都へ行くと言って村を出た。
クラム伯爵家で世話になる話もしたが、メイドとして働くのだと勘違いされ、訂正できないまま別れることになった。
高価な服を着て護衛に守られながら馬に乗る今の自分が、近所に住んでいた村娘だとは誰も思わないだろう。



