敬称も敬語もない、ヒソヒソとしたやり取りがくすぐったい。
「横座りするアドを少し見てみたい気もするけれど」
つけ足した本音に彼が声をあげて笑った。
「皆が驚くだろうな」
前後左右に護衛や官人二十五人がそれぞれ馬に乗って同行している。
仲のよい夫婦の様子が彼らの目にどのように映っているのか、その心情を察すれば照れくささが倍増した。
クララの顔が真っ赤に色づくのに気づいたアドルディオンが、ニッと口角を上げる。
不意打ちのように彼の唇が頬にあたり「きゃっ」と声をあげたら、従者たちの視線を先ほどより多く集めてしまった。
二時間ほど馬で進むと、見慣れた景色に変わる。
サンターニュ村に入ったのだ。
オリーブや小麦畑が広がり、川が流れ、遠くにブドウ農園のある切り立った崖が見えた。
ここからでは海はまだ見えないが、微かに潮の匂いもする。
(懐かしい……)
村を発ったのは二年ほど前なのに、もっと長い期間、帰っていなかった気がする。
覚悟を決めて王都に出てからというもの、心が追いつかないような大きな転換が何度もあり、そのたびに感情が大きく動かされた。
貧しくても穏やかな村での日々と、王都での激動の二年ほどが心の中を駆け巡る。
(私、ついに帰ってきたんだわ!)
畑と潮の香りを胸いっぱいに吸い込んで、感嘆の息をついた。



