まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 急に敬語を使うなと言われても、癖がついているので何度も言い間違えてしまう。

「慣れるには時間が必要か」

 ククッと笑われたその時、ドアの外に護衛兵の鋭い声がした。

「誰だ!」

 甘い雰囲気は瞬時に消え去り、緊迫した空気に支配される。

(なにかあったの?)

 鋭い視線をドアに向け気配を窺っている夫が、低い声で指示する。

「状況を確認してくる。クララは部屋から出るな」

「は、はい」

「大丈夫だ。おそらく館の使用人が立ち入り禁止の範囲を失念して、廊下を渡ろうとしただけだろう。襲撃の危険があるとは思っていない。辺境伯は次代になっても王家を支持すると約束し、文書も交わした」

 妻を安心させようとしての説明のようだが、逆にヒヤリとした。

 寝込みを襲撃されると少しも思っていなかったからだ。

(歓迎してもらえて私は安心しきっていたけれど、アドは万が一を常に考えて気を張っているんだ)

 にこやかに握手を交わしても、完全に信用しないのが貴族なのかもしれない。

 妃として夫に教わらなければならないことがたくさんありそうだと思いつつ、ベッドを下りてドアへ向かうアドルディオンを見送った。



 翌日、秋晴れの空にイワシ雲が浮かんでいる。

 昨夜はアドルディオンが言った通りで、その後は何事もなく夜を明かし、辺境伯一家と談笑しながら朝食の席をともにした。