まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

治療費がパトリシアの結婚と引き替えだという話はしていない。そんなことを教えたら、病気の体に鞭打って無理やり退院してしまうだろうから。

内省に沈むパトリシアを兄が睨むように見つめている。

わざとショックを与えるような言い方をするのは、母親の敵だった女の娘を苦しめることで復讐しようとしているのかもしれない。

ロベルトは母親想いなのだと気づくと、パトリシアの方は嫌いになれなかった。

「長年にわたって奥様を苦しめたこと、母に代わりお詫び申し上げます。私が伯爵家に住むようになり、奥様もお兄様もおつらかったでしょう。それについても申し訳なく思います」

兄に対しては心から頭を下げる気になったけれど、父親に対する思いは複雑である。

「母の治療費を出してくださり深く感謝しております。ですから私の嫁ぎ先がどこであろうと構いません。どうぞ私を伯爵家のために使ってください」

前半は本心だが、後半を述べるには悔しさをグッとこらえねばならなかった。

(お父様を好きになれない。過去には奥様やお母さんの気持ちを踏みにじり、今度は私を物のように扱う。価値を上げて取引材料になれですって? 私だって意思のある人間なのに。すべてがお父様の思い通りに進むのは悔しい)