まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(そうだったの。あの時、私が拒まなければ、もっと早くわかったのに)

 今までとは違う後悔の仕方をするとともに、驚きや興奮が胸の中を駆け巡った。

 恥ずかしさも忘れて急いでネグリジェをたくし上げ、白い太ももをあらわにする。

 そこにあるのは、リンゴの花弁のようなピンク色の痣だ。生まれた時からのものである。

 安堵とも喜びとも、疲労ともつかない深いため息がアドルディオンの口からもれた。

 引き寄せられて強く抱きしめられ、耳に唇があたる。

「生きていてくれてありがとう。クララ」

 初めてその名で呼ばれ、喜びに胸が震えた。

 今ならわかる。本名を明かしても呼んでくれなかったわけが。

 アドルディオンにとってクララは、ただひとりの大切な存在なのだ。

 腕を緩めた彼がクララの肩に目を押しあてた。

 ネグリジェの薄い生地が温かくしめり、夫が泣いていると気づく。

(この九年間、ずっと苦しんでいたんだ)

 どこか冷たい雰囲気は、少女を死に追いやった自責の念からくるものだったのかもしれない。

 常に懺悔の想いを抱えて国を率いるのは、どれだけ大変だったことだろう。

 そこからやっと解放されたというのに、声さえ上げずに静かに涙する彼の強い精神力を尊敬した。

(私が覚えていたら、もっと殿下を喜ばせることができたのに)

 思い出そうとすれば頭が痛む。