まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 視察に同行していたハイゼン公爵に指揮を執らせて少女を捜索したが、もたらされたのは亡骸を確認したという地獄の報告だったという。

「俺のせいで亡くなったと九年間、悔恨に耐えてきた」

 パトリシアの鼓動が早鐘を打ち鳴らしている。

 子供の頃に川に落ちたのは想像ではなく事実で、その前三日間の記憶がない。夫の思い出話と付合した。

 アドルディオンが一拍黙ってから、パトリシアの目をまっすぐに見て告げる。

「その少女の名は、クララだ」

(私なの!? 境遇も川に落ちたのも同じ。記憶のない三日間、私は少年時代の殿下と過ごしていたの?)

 パトリシア――クララは抱えるように両手で頭を押さえ必死に思い出そうとしたが、痛みに呻くのみ。

 代わりに思い出したのは入院中の母の顔だ。

『ちょっと思い出していただけよ。お転婆なあなたを気に入ってくれた男の子のことを』

 アドルディオンに木登りを許されたと話した時に、母は遠い目をしてそう言った。

 その男の子とは、九年前の三日間、自宅に滞在した少年のことではないだろうか。

 今の彼に母はまだ会っていないので同一人物とは気づいていないと思うが、娘の話からなんとなく似ていると感じたのだろう。

(本当にうちに少年時代の殿下が来ていたのなら、お母さんは覚えているはずよ。どうして話してくれなかったの?)