まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(馬なら私も上手に乗りこなせる。馬貸しのお手伝いをしていたから)

 夫の期待に応えたいと思っているせいか、パトリシアは自分と少女を重ねて聞いていた。

(その時そこに私がいたなら、絶対に同じようにしたはずよ)

「情けない話だが、俺は落馬して意識を失った。気づいた時は少女の家で怪我の手当てをしてもらった」

 不自由なく動けるようになるまで三日かかると村医者に言われたため、そのまま少女の家で世話になったそうだ。

 少女は母親とふたり暮らしで、漁港とブドウ農園で働き学校には通えない貧しさだったという。

(私とまったく同じ)

 これまで想像力が豊かだと感じたことはなかったが、銀色の髪をした気品ある少年が、掘っ立て小屋のような自宅にいる様子がありありと目に浮かぶ。

 漁港でもらった小魚と海老や貝の入ったバケツを提げて急いで帰ると、彼が『お帰り』と出迎えてくれた。

 留守の間に帰ってしまったらどうしようと少し心配だったので、待っていてくれたのが嬉しかった。

 郷土料理の魚介のスープを張りきって振る舞えば、『とても美味しい』と褒めてくれて、はしゃぎたくなるほど喜んだ。

(これは私の記憶なの? わからない。殿下の話から勝手に想像を膨らませただけかもしれない)

 頭が微かに痛みだす。

 記憶なのか想像なのかわからなくなり、静かに混乱している間も夫の話は続いている。