まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 恥ずかしさにうつむけば大きな手が頭にのり、わかったというようにポンポンと優しく叩かれた。

 目を合わせると微笑んでくれて、それからスッと真顔になる。

「俺は、どうしても期待を消せない」

「えっ?」

 深刻そうな顔なので、自分が言った期待とは意味が違うのはわかる。

「別人だと何度自分に言い聞かせても君を見るたびに儚い願望が湧いてくる。それを消さなければ君と真正面から向き合えないだろう。だから聞いてほしい。九年前にサンターニュ村の少女と出会った時の話を」

(話してくださるんだ。私も聞きたい。似ているというその子が誰なのか知りたい)

 背筋を伸ばして座り直すと、遠い目をした彼が静かな声で語りだした。

「国王命令でこの地を極秘で視察した時のことだ――」

 十四歳の彼は国王から力量試しとして、当時反王派だった辺境伯領の視察を命じられた。

 旅人に変装し、王太子だと気づかれてはならない危険の伴う任務である。

 町や村々の調査は順調に進みサンターニュ村に入ったら、騎乗していた馬が暴れ出して視察の一行とはぐれてしまったそうだ。

 馬を制御できず命の危機を感じていたら、少女が木から馬へ飛び移り、助けようとしてくれたという。

「我が身の危険を顧みず、勇敢な少女だった」

 恩を感じているのが口調から伝わってきた。