まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

『王太子殿下の人を見る目は優れておられる。このように素晴らしいお嬢様を妃とされたのですから。深窓のご令嬢というお噂は遠いこの地まで届いておりました。お美しく、気品と優雅さを兼ね備えた妃殿下は、すべての国民に愛されることでしょう。まことこの国の未来は明るい』

 今はまだ信頼のおける近しい貴族から本当の出自をじわじわと広めている最中なので、この視察で辺境伯一家に打ち明けるわけにはいかない。

(サンターニュ村で生まれ育ったと知ったら、どう思うのかしら?)

 ボロを出さないように緊張し続けていたため、濃い疲労を感じていた。

 先に休ませてくれた夫の配慮に感謝し、気を緩めて寝支度を始める。

 しかしネグリジェに着替えている際にドアの外に微かな物音がして、緊張がぶり返す。

(そうだった。ドアの前に護衛の方が立っているんだ)

 晩餐中も歓談中もずっと護衛兵が近くに控えていた。

 警戒するのは辺境伯一家に失礼ではないかと思ったが、王族の視察とはこういうものなのだろう。辺境伯もわかっているような雰囲気だった。

 護衛兵は決して着替えを覗かないとわかっていても、ドアの真ん前に立たれるのに慣れていないので気になった。

 辺境伯領内に入るまでの二泊は宿屋を丸ごと貸し切っていたため、護衛は棟の出入口と廊下に立っていたのだ。

(眠れるかな)