まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

(奥様の苦しみにまで思い至らなかった……)

伯爵夫人からしたら、伯爵の愛人だった母は憎むべき存在だ。夫を取られた悔しさで眠れぬ夜もあったのではないだろうか。

愛人が伯爵家から追い出されて年月が経ち、せっかく夫の不貞を忘れかけていたというのに、庶子の娘を引き取ると言われて当時の気持ちが蘇ったに違いない。

伯爵夫人に申し訳ないと思ったが、同時に母を擁護したい気持ちも湧く。

(嫌だったって言っていたもの)

パトリシアの目に映る父親は利己的で冷たく、どうして母が恋愛感情を持てたのか疑問だった。

それでお見舞いに行った際に父親のどこに惹かれたのか聞いてみたら、『本当は嫌だった』とポツリと言ったのだ。

すぐにごまかすように話題を変えられてしまったが、その言葉だけで当時の母の状況が推測できた。

愛人になどなりたくなかったが、伯爵に逆らえばメイドの仕事をクビにされてしまう。貧しい実家に仕送りするために必死に耐えていたのではないかと。

優しい母ならきっと、伯爵夫人に対して懺悔の気持ちも抱いていたことだろう。

パトリシアに対しても母は何度も謝っていた。

『私が死んだ後のあなたの生活費の援助をお願いしたから、こんなことになってごめんなさい』

自分はどうなってもいい、つらければ村に帰るようにと、見舞うたびに母は言った。