まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 なにがあったのだろうと思うのと同時に、大きな歓声が聞こえた。

「王太子殿下ご夫妻、ようこそいらっしゃいました!」

 窓の外を見ると、領主が住まう大きな町の入口に着いたところのようで、沿道に整列した領民たちが笑顔で旗を振っている。

 道沿いの家々は門戸が国旗や花で飾られて華やかだ。

「予想外の歓迎ぶりだな」

 そう言うということは、辺境伯領内で王族は民から支持されていないと思っていたのかもしれない。かつて反王派だった時代から、それほど年月が経っていないからだろう。

 前方から栗毛の馬に騎乗した立派な身なりの男性がやってきた。

 六十代前半くらいの、半分白くなった口ひげを生やした恰幅のいい紳士だ。

 聞いていた情報と容姿が同じなので、すぐにケドラー辺境伯だとわかった。

 帽子を取って会釈した辺境伯がにこやかに声をかける。

「馬上から失礼いたします。我が館まで私が先導いたしましょう。ご挨拶は後ほど改めていたします」

 辺境伯の姿が窓から外れると、馬車が再び動き出した。

「領主様――あ、いえ、辺境伯が自らご案内くださるのですね」

 村娘だった時は領主様と呼んでいたが、今は自分の方が上の立場である。

 呼び方を修正し、領民と一緒に出迎えてくれたことを嬉しく思った。