まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 村の子供たちは皆、大人の手伝いをしていた。学校に通うことができないほど貧しい子供は少なかったけれど。

 ブドウ農園の仕事を手伝う少女が自分の他にいてもおかしくない。

 またしても探るような目で見られ、パトリシアは困惑する。

(殿下は時々こういう目をする。なにか言いたそうで、私を通して他の誰かを見ているような……。もしかしてその少女が私だったらよかったのにと思っているの?)

 誰だかわからない少女に嫉妬してしまう。

 きっとその少女との忘れられない思い出が彼にはあるのだろう。

(この視察は大人になった少女を捜す旅だったりして……)

 落ち込みそうになり、慌てて勝手な憶測はやめようと思い直した。

(私に里帰りさせてあげたいという優しさを疑いたくない。王城に戻ってからも殿下と笑顔で思い出話ができるように、楽しい旅にしないと)

「殿下にはサンターニュでの素敵な思い出がおありなのですね。この旅でその人に会えるといいですね」

 本心ではないことを言うのは苦しいが、嫉妬を押し込めて無理やり微笑んだ。

 するとアドルディオンが切なげに目を逸らす。

「いや、二度と会えない。現実は変えられないとわかっているのだが、俺は――」

 その時、馬が急に脚を止め、車体がガタンと揺れた。

 アドルディオンの腕が腰に回されて引き寄せられ、座面から弾んだ体を支えてもらった。