「私もですか? どちらの領地へ?」
「ケドラー辺境伯領のサンターニュ村だ」
故郷の名に目を丸くする。
(たしか殿下は過去にお忍びで行ったことがあるような話をされていたわ。サンターニュは私の大切な故郷だけど、豊かな自然以外に名所のない小さな村で、二度も視察に行くような場所ではないのにどうして……あっ)
里帰りさせてあげようという計らいだと気づき、感謝と喜びが込み上げた。
(透き通る青い海やブドウ畑がまた見られるなんて)
「私のためなのですね。ありがとうございます!」
嬉しさのあまりに抱きついてしまうと、腕や頬に逞しい筋肉を感じ、慌てて離れた。
真っ赤に顔を染めたら、大きな手で頭を撫でられる。
「久しぶりに君の可愛い笑顔を見られた」
(可愛い!?)
初めて彼から言われた褒め言葉に動揺し、動悸が加速してなんと返していいのかわからない。
クスッと笑ったアドルディオンが視線を窓に逸らして呟く。
「視察は俺のためでもある。愚かな願望を消すための。今のままでは君と向き合えないから」
(願望って?)
独り言のようなので問いかけられず、遠い目をする彼に首を傾げた。
秋が深まり紅葉する木々を眺めながら、パトリシアは夫と馬車に揺られている。護衛兵と官人、二十五人を連れて辺境伯領へ向かっていた。
「ケドラー辺境伯領のサンターニュ村だ」
故郷の名に目を丸くする。
(たしか殿下は過去にお忍びで行ったことがあるような話をされていたわ。サンターニュは私の大切な故郷だけど、豊かな自然以外に名所のない小さな村で、二度も視察に行くような場所ではないのにどうして……あっ)
里帰りさせてあげようという計らいだと気づき、感謝と喜びが込み上げた。
(透き通る青い海やブドウ畑がまた見られるなんて)
「私のためなのですね。ありがとうございます!」
嬉しさのあまりに抱きついてしまうと、腕や頬に逞しい筋肉を感じ、慌てて離れた。
真っ赤に顔を染めたら、大きな手で頭を撫でられる。
「久しぶりに君の可愛い笑顔を見られた」
(可愛い!?)
初めて彼から言われた褒め言葉に動揺し、動悸が加速してなんと返していいのかわからない。
クスッと笑ったアドルディオンが視線を窓に逸らして呟く。
「視察は俺のためでもある。愚かな願望を消すための。今のままでは君と向き合えないから」
(願望って?)
独り言のようなので問いかけられず、遠い目をする彼に首を傾げた。
秋が深まり紅葉する木々を眺めながら、パトリシアは夫と馬車に揺られている。護衛兵と官人、二十五人を連れて辺境伯領へ向かっていた。



