まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「しばらく会えなかったのは本当に政務に追われていたためだ。夜更けに寝室に入れば君を起こしてしまうだろうから、別室で寝ていた。俺が避けていると思って会いにきたんだな。不安にさせてすまなかった」

「あ、よかった……」

 嫌われていなかったことにホッとして、大きな喜びが湧き上がる。

 心の靄がスッと晴れ、久しぶりに日の光を浴びた気分がした。

「私は思い込んでいたんですね。ご迷惑をおかけしました」

 安心したら涙腺が緩んで瞳に涙の幕が張る。

 それが露となってこぼれぬうちに、夫の親指が優しく拭ってくれた。

「俺も思い込んでいたからおあいこだ。俺に抱かれるのは嫌なのだろうと思っていた。言い訳になるが襲うつもりはなく、確認したかっただけなのだ。驚かせてすまない」

「確認とは、なんのですか?」

「それは――いや、いい。忘れてくれ」

 翡翠色の瞳が切なげに揺れた気がしたが、疑問に思う前に話題を変えられる。

「忙しいのはあと十日くらいだろう。それまでに今抱えている重要案件に決着をつける。その後は遠方に視察に向かう予定だ」

「わかりました……」


 遠方ということは何日も帰れないと思われ、ひとり寝の夜はしばらく続きそうだ。

 政務の妨げとならないよう寂しさは口にできず、無理して微笑む。

 すると予想外の誘いを受けた。

「視察は君にも同行してもらう」