まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

『いやはや仲がおよろしくて結構ですが、あてられてしまいますな』

 そのような笑い声も耳に届き、火を噴きそうなほど顔が熱くなる。

「大変、申し訳、ございません……」

 もごもごと小声で謝れば、嘆息したアドルディオンがやっと手を離してくれた。

「どうぞこちらへ」

 いつの間にいたのかジルフォードが近くの応接室のドアを開けて微笑んでいる。

 夫にいざなわれてその部屋に入ると、ドアが閉められてふたりきりにされた。

 首をすくめて頭を下げる。

「殿下にお恥ずかしい思いをさせてしまいました」

 貴族たちを服従させるには威厳が必要で、王太子の彼はあのように茶化されていい存在ではない。

「休憩時間とはいえ、急用でもないのに会いにいくべきではありませんでした」

 反省していると、アドルディオンの両手が包むように頬に触れた。

「顔を上げろ」

 その声は優しく温かく、少しも怒りを感じない。

(怒っていないの?)

 顔を見れば彼の口角はわずかに上がっていて、涼しげな目は細められた。

 廊下ではそっけなくされたが、人目を気にしていたからであって不機嫌ではなかったのかもしれない。

 近距離で見つめられると、恋心が加速しそうで困った。