まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

クラム伯爵領は内陸に位置し、海がない。そのため穀物や果実を遠方に出荷する際にはグラジミール卿領内の港を利用している。

その使用料が年々上がり続けて財政の負担になっており、娘を嫁がせることで減額を期待しているそうだ。

グラジミール卿の方は厳しくしすぎてふたりの妻に逃げられ、現在三度目の結婚相手を探しているというので喜んで取引に応じるだろう。

つまり取引材料であるパトリシアの価値をできるだけ高め、港の使用料を安くしてもらおうという算段らしい。

パトリシアは青ざめて唇を震わせた。

(お父様はどうして私に嫁ぎ先を決めていると話さなかったの? 私が結婚を嫌がって逃げ出すと思ったから? こんなの騙された気分よ)

離縁したふたりの妻がひどい目にあったのだろうと思えば鳥肌が立った。グラジミール卿だけでなく、娘にひとかけらの愛情も持たない父親にも嫌悪感を覚える。

唇を噛んでうつむいていたら、ロベルトが高笑いした。

なにがおかしいのかと眉根を寄せて顔を上げると、笑いをおさめた兄が愉快そうに言う。

「父上にグラジミール卿との結婚は嫌だと言えばいい」

「そんなことをすればお母さんの治療費が――」

「病気の母親を連れて村に帰れよ。目障りなんだ。お前の母のせいで母上がどれだけ苦しめられたと思っている。いい気味だ」

スッと真顔になったロベルトを見て、パトリシアは動揺した。