まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「ありがとう。行ってくる。エイミはここで待っていて」

 急いで議場へ向かう廊下の曲がり角で、前から来た男性とぶつかってしまった。

「あっ!」

 体格差で弾かれて尻もちをつきそうになったが、腕を掴んで支えられ事なきを得た。

「申し訳ござい――殿下!」

 仰ぎ見れば半月ほど見ていなかった愛しい夫の顔があり、たちまち鼓動が跳ねた。

(やっと会えた。嬉しい)

 抱きつきたい衝動に駆られたが、支えの手が離されて我に返った。

 慌てて居住まいを正し、スカートをつまんで淑女の礼を取る。

「そんなに急いでどこへ行く?」

 どこか緊張をはらんだような硬い声で問いかけられ、やはり嫌われているのだろうかと弱気になった。

 けれどもグッとこらえてアドルディオンから目を逸らさない。

「殿下にお会いしたく、休憩時間になるのを待っておりました」

「相談があると言っていたな。急ぎだったのか。内容をジルフォードに伝えてくれたなら、もう少し早く返事ができたのだが」

「いえ、急ぎではなく――」

 昨夜バルコニーで考えていた会うための口実を話す。結婚式以来会う機会のなかった伯爵家から晩餐会の招待状が届いたが、出席していいかと問いかけた。

 一拍置いてから、無表情のアドルディオンがそっけなく答える。

「君の好きにするといい。それだけか?」