まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 しょんぼりとしているその肩を掴んだパトリシアは、顔を覗き込んで励まそうとする。

「エイミは可愛いわ。いつも一生懸命で真っすぐで、みんながあなたのことを大好きよ。いつかきっと気持ちは届くと信じて、私と一緒に頑張りましょう。だから〝私なんか〟と言わないで」

「一緒にということは、パトリシア様も頑張るのですね? 殿下のお心を取り戻すのを」

「えっ……」

「二週間前になにがあったのか聞きませんけど、ギクシャクしたままでいいのですか? 恋をすると臆病になるのはわかります。私もそうですから。でも度胸なら、パトリシア様に勝てる女性はいないはずです。平民から貴族社会に飛び込む勇気もすごいですけど、王太子妃にまでなっちゃうんですもの。私は心からパトリシア様を尊敬しています」

 励ますつもりが逆になり、度胸があるという褒められ方に苦笑した。

(お転婆ってことかしら。淑女の枠からは外れるわね。でも嬉しい。自分らしさを思い出せた。エイミの言う通り、寂しい気持ちで待っているだけじゃダメよね)

「ありがとうエイミ。明日、少しだけでもお話しできないか、ジルフォードさんに取り次いでもらうわ」

「その意気です!」

 安心した様子でエイミが退室し静かになると、外の虫の音が耳に届いた。

 豊かなドレープのカーテンを開けてバルコニーに繋がるガラス扉の錠を外した。