まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

「私は元気よ。最後にお会いした夜から、もう二週間経ったんだと思っていただけ。毎日やることがたくさんあるから少しも寂しくないわ」

「本当ですか?」

 疑われたので作戦を変えてみる。

「もしかして殿下の執務室に行きたいのは、ジルフォードさんがいるかもしれないから?」

 たちまち真っ赤になったエイミがムキになって否定する。

「違います。そんなことは絶対に狙っていません。私はパトリシア様と殿下のご夫婦仲を心配しているだけです」

「そういうことにしておくわ。でもジルフォードさんにも会いたいでしょう? この前のように手作りのお菓子を持っていったらいいわ。今度一緒に作りましょう。だからそれまでは執務室に行きたくても我慢してね」

 エイミはジルフォードに恋心を寄せている。

 夫婦での公務の際には近侍と侍女が事前に打ち合わせをするので、会話の機会は少なくない。

 物腰が柔らかく、大人の包容力を感じさせるジルフォードに自然と惹かれたようだ。けれども、恥ずかしいのかいつも否定する。

「パトリシア様の勘違いです。ジルフォードさんとは十二歳も離れているんですよ? いつも子供扱いです。美人じゃないし、家柄もよくないし、これといった取り柄もない私なんか、好きになったって絶対相手にしてもらえません」

 この恋は実らないと最初から諦めているようで、エイミらしい明るさがない。