まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!

 眉尻を下げたエイミが視線を向けた先はテーブルで、手作りのスコーンとアプリコットのジャム、ハーブティーの入ったティーポットとカップがふたつ、銀製のトレーにのせられて置かれていた。

 アドルディオンのために用意したのだが、食べてもらえないだろうとも思っていた。

(きっと今夜も殿下は寝室に来ないわ……)

 ベッドに押し倒されて驚いたあの夜以降、彼と顔を合わせていない。

 ジルフォードが言うには、隣国との重大な条約締結を控えているため多忙なのだそう。

 もともと食事を一緒にとる機会は少ないが、休憩時間はできるだけ合わせてくれていたのに、この二週間はそれがない。

 寝室にも現れず、執務室のソファで短い睡眠を取っているそうだ。

 特別に忙しい時期だという事情を信じているけれど、避けられているのではと疑う気持ちもあった。

(拒まなければよかった。ううん、嫌がったつもりはない。ただ驚いて、私を求めてくださる理由を先に聞きたかっただけ。愛していると言ってほしかった……)

 思い浮かべたのは舞踏会の日のアドルディオンだ。

 あの会場には着飾った美しい貴族令嬢が大勢いた。

 紳士的な笑みを浮かべた彼は多くの令嬢をダンスに誘っていたけれど、その目はどこか冷めていて、今思えば誰も愛さないと最初から決めているかのようだった。